白熱する「車載OS」の勢力争い
各社の展望は?利用者にとってのメリットは?
スマートフォンで激しいシェア争いをしているアップルの「iOS」とグーグルの「Android」。その競争が自動車にも持ち込まれています。カーオーディオやカーナビ、情報システムなどを統合したインフォテインメントシステムのOS(基本ソフト)に、アップルとグーグルが相次いで参入したのです。既存の勢力も交え、車載OSは群雄割拠の様相ですが、いずれにしても利用者にとっては利便性が向上しそうです。
最近の自動車には、さまざまな車載機能やカーナビ、ネット接続などを一括して操作できるインフォテインメントシステムが導入されるモデルが増えています。ここでは、特に注目されている車載OSを紹介していきます。
機を見るに敏なアップル、素早く反応したグーグル
自動車メーカーのインフォテインメントシステムは、多額の費用をかけて開発されています。しかし、こういったユーザーインターフェースが重要なシステムは、大金をかければいいものができるとは限りません。そもそも、利用者は出来がいいかどうかに関わらず、新しいシステムを求めていないと言っても過言ではないでしょう。利用者が求めているのは、自分が使っているスマートフォンを車内でも快適に使うことです。
例えば音楽にしても、スマートフォンに聴きたい音楽を保存している人は、車内でもそれをそのまま再生したいと思うはずです。スマートフォンに保存されている音楽をわざわざ車載のインフォテインメントシステムにも転送しなければならないとしたら、面倒であり不合理でしょう。
そういったニーズにいち早く気づき、ビジネスチャンスにつなげたのはアップルです。2013年6月に車載OSのプロトタイプともいえる「iOS in the Car」を発表し、2014年の3月にはその正式版となる車載OS「CarPlay」をジュネーブモーターショーで華々しく発表しました。
驚くべきは、「CarPlay」の発表時点ですでにメルセデス・ベンツやトヨタといった主要な自動車メーカーがパートナー企業として名を連ねていたこと。車載OSはこのままアップル一色になってしまうのではと思われたほどで、「CarPlay」の発表そのものよりも、パートナー企業のそうそうたる顔ぶれが、関係者を驚かせました。
アップルのライバルであるグーグルが、この状況を黙って見ているはずはありません。「CarPlay」の発表からわずか3ヵ月後の2014年6月には、グーグル版の車載OS「Android Auto」を発表しました。実は、グーグルは2014年1月の時点でAndroidを車載化するための業界団体を立ち上げています。したがって「Android Auto」の発表は突然というわけではないのですが、それにしても攻勢に出たアップルに対して素早い反応を見せたと言うべきでしょう。
iPhoneありきのアップル、壮大な野望を抱くグーグル
「CarPlay」や「Android Auto」で何ができるかというと、どちらもスマートフォンを有線で車両に接続し、車両側のディスプレイやスイッチを使ってスマートフォンの機能を操作する、というイメージ。当然ながらその機能もスマートフォンに準じるもので、電話、カーナビ、音楽再生などがメインとなります。
ただし、それぞれが目指す方向性には違いがあるようです。アップルのWebサイトの「CarPlay」ページを見ると、「ドライブに、最高のiPhone体験を」とあります。つまり、「CarPlay」はまずiPhoneありきのシステムであり、iPhoneの世界をカーライフにまで広げるためのものなのです。
一方、「Android Auto」はその発表時に、自動車そのものをAndroid端末化し、スマートフォンの力を借りずにネット接続する、いわゆるコネクテッドカーを目指す方向性が示されました。また、グーグルといえば自動運転車も大きな話題となっており、グーグルが何らかの形で自動車産業に参入することはほぼ確実。そのための「Android Auto」なのかどうか、現時点では定かではありませんが、壮大な野望を抱いているのかもしれません。
トヨタ、マイクロソフト、既存のインフォテインメントシステムの反撃は?
ここまでは、「アップル vs. グーグル」の構図に注目してきましたが、車載OSの覇権争いはこの2陣営に絞られたわけではありません。
日本の自動車メーカーは、10年以上も前からインフォテインメントシステム(当時は「テレマティクス」と呼ばれていました)の重要性を察知し、巨額の費用をかけてその開発に取り組みました。トヨタの「G-BOOK」、日産の「カーウイングス」、ホンダの「インターナビ」などがそれです。なかでもこの分野に入れ込んでいるのがトヨタで、現在は「G-BOOK」を発展させた「G-BOOK mX」「G-link」「T-CONNECT」などといったサービスを大々的に展開しています。
トヨタのシステムは、接続先としてインターネットを利用するのではなく、膨大な情報を管理・発信する情報センターまで自前で設置しているのが特徴です。そのため非常に大規模なシステムとなっており、これまでの投資額も膨大なものに。「CarPlay」や「Android Auto」が発表されたからといって、既存サービスをあっさり捨てるわけにはいきません。
もうひとつ、動向に注目すべきなのはマイクロソフトです。同社も「CarPlay」と同じような車載OS「Windows in the Car」を2014年に発表しましたが、決して新規参入ではありません。実は、カーナビ用OSとして「Windows Automotive」や「Microsoft Auto」を15年以上も前から開発、供給しており、このジャンルでは大きなシェアを持っているのです。
カーナビ用OSとここで取り上げている車載OSは別物ですが、結局のところ、インフォテインメントシステムはカーナビを中心にしたシステムです。ITの分野で王者であるマイクロソフトは、アップルやグーグルの躍進にさんざん苦しめられています。15年も前から実績を積んできた自動車分野にもこの2社が乗り込んできたとなれば、マイクロソフトにとっておもしろいはずがありません。
期待されるのは「利用者にとってメリットのある決着」
このように、車載OSの覇権争いは群雄割拠の様相です。家電やPCで過去にあった規格争い、例えば「VHS vs. ベータ」や「HD DVD vs. ブルーレイ」などでは、時として、利用者を置き去りにした争いの末に、利用者に不利益すらもたらすこともありました。
車載OSの覇権争いもその二の舞いとなるのでしょうか。例えば、自分の欲しい車が「CarPlay」対応で、使いたいスマートフォンがAndroidだったら、どちらかを妥協しなければなりません。
しかし、少なくともスマートフォンと自動車の接続の面では、心配はなさそうです。なぜなら、多くの自動車メーカーが「CarPlay」と「Android Auto」の両方に対応する方針であることを発表しているから。三菱自動車では、2016年モデルの欧州向け「パジェロ」に、両方式に対応したディスプレイを搭載すると発表しました。その他の自動車メーカーも、その多くがアップル、グーグル両陣営のパートナー企業として名を連ねています。
車載OSの覇権争いが“両対応”という形に落ち着けば、利用者に不利益がないばかりか、両陣営が競い合うことで性能、サービスの向上が期待できます。アップルは、自社の地図サービスをアップグレードするため、グーグルのような撮影車両を世界各地で導入すると発表しました。これもCarPlayの機能アップに役立てる取り組みかもしれません。
2015年7月28日掲載
自動車雑誌、バイク雑誌の編集を経て、フリーランスとして独立。Webに活躍の場を移し、多数のサイトで執筆活動を展開中。カーナビやデジタルガジェットのインプレッション記事も得意とする。最近はYouTubeで車やバイクのレストア・整備・修理などを公開中(まーさんガレージ:https://www.youtube.com/user/yamada911/)。
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