今、車のボディ素材に変革が起きている!
~車の燃費・性能向上を加速させる「車重の軽量化」~

ガイド:山田 正昭

何十年ものあいだ大きな変革がなかった自動車のボディの素材が、大きく変わり始めています。車のボディと言えば、鉄で作られるのが一般的でしたが、低燃費性能への要求が急激に高まり、車両の大幅な軽量化が必要とされ始めたことが大きな理由です。アルミをはじめ、「FRP(繊維強化プラスチック)」「CFRP(炭素繊維強化プラスチック)」などの軽量な素材や、「ハイテン(高張力鋼板)」と呼ばれる強度の高い鉄の採用で格段に軽くなった自動車。燃費性能が優れているだけでなく、軽快な走りも手に入れました。

長いあいだ、車のボディは鉄で作られてきました。ところが昨今、自動車メーカーが採用する素材に変化が起きています。キーワードとなるのは「軽量化」。車のボディがどのような変革を遂げているのかを解説していきます。

モノコックボディの普及により、車は鉄以外で作れなくなった

自動車の歴史を紐解いてみると、そのボディは決して鉄だけで作られていたわけではありません。自動車が誕生したばかりの黎明期には木材が多用されていましたし、ハンドメイドに近い少量生産の分野では、「FRP(Fiber Reinforced Plastics、繊維強化プラスチック)」やアルミなどの素材は古くから使われています。

木材やFRP、アルミを当時の技術で自動車のボディに使うことができたのは、当時の自動車の構造に秘密があります。かつての自動車はフレームという車台の上にボディが乗る構造でした。ボディには大きな力がかかることはないので強度が必要ないため、いろいろな素材を使えたのです。

とはいえ、ボディはやはり鉄で作られることが多かったのですが、「ボディ=鉄」を決定づけたのはモノコックシャーシの登場でした。モノコックシャーシは従来のフレームとボディをひとつの構造として作り上げる手法。大量生産が前提なら、フレームとボディを分けて作るよりも低コストで強度が高く、スペース効率に優れ、軽量に仕上げることができます。

ただし、モノコックシャーシはとても複雑な形状をしているので、低コストで量産するには加工しやすい素材でなければなりません。加工しやすい素材として鉄以外の選択肢がなかったため、モノコックシャーシが主流になると同時に、鉄以外の材料で自動車のボディが作られることはほとんどなくなってしまったのです。

ガソリン価格の高騰が自動車のボディに革命を起こす

数十年にわたって「自動車のボディは鉄で作られるもの」という認識が定着していたこともあり、その構造も大きく変わることはありませんでした。どんどん進歩していくエンジンやサスペンションと比べれば、動きのない分野だったのです。

しかし、その静寂は環境問題とガソリン価格の高騰によって打ち破られました。自動車メーカーにとっては、燃費性能こそが死活問題となり、社運をかけた低燃費争いが始まったのです。

燃費の向上にはさまざまな手段が用いられます。例えば、エンジン単体の低燃費性能を上げたり、トランスミッションを効率化したり、空気抵抗を減らしたり。これらすべてに手を尽くしたメーカーが最後の切り札として取り組んだのが、車重の軽量化です。

実は、自動車の重量は新型モデルが出るたびにどんどん重くなっています。エアコンに始まりパワーシートやカーオーディオといった快適装備、エアバッグなどの安全装備が車重を増加させているのです。ボディも例外ではなく、衝突安全性が重視されるようになってから、格段に重くなっています。

今さらエアコンを外したり、エアバッグを外したりして、快適性・安全性を犠牲にすることはできません。しかし、車重はどうしても軽くしなければならない。その解決策が、数十年にわたってほとんど変化のなかったボディの刷新なのです。

車の軽量化のカギとなる「ハイテン」「アルミ」

実は、一口に“鉄”と言っても数えきれないほどたくさんの種類があり、従来は加工性を重視して柔らかい鉄が多用されてきました。しかし、最近では「ハイテン(High Tensile Strength Steel、高張力鋼板)」と呼ばれる強度の高い鉄が多用されるようになってきています。量を減らしても同じ強度を達成できるため、軽量化につながるのです。

近年は、ボディ素材としてアルミの存在感も増しています。アルミは加工性に優れるものの、溶接することが難しいためモノコックシャーシの材料には向かないとされてきました。その問題を解決したのは、意外にも接着剤。アルミボディは溶接ではなく、接着剤とリベット止めで作られるのです。

現在ではほとんどのメーカーがボディの一部にアルミを使用するようになり、ボディのすべてをアルミ製としているメーカーもあります。アルミ化に熱心なランドローバーの主力モデルである「レンジローバー」は、ボディをオールアルミに刷新。その結果、車重が最大で420kgも軽くなったというから驚きです。

この軽量化はボディだけでなくさまざまなパーツを軽量化して達成されたものですが、アルミボディがなければ絶対に実現できなかったでしょう。

「FRP」「CFRP」などの素材もボディの軽量化に貢献

アルミと並んで注目を集めているボディ素材が、「FRP(Fiber Reinforced Plastics、繊維強化プラスチック)」や「CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics、炭素繊維強化プラスチック)」です。

このページの冒頭で、「少量生産の分野ではFRPは古くから使われている」と前述しました。実は、FRPは少量生産に向いている素材なのです。スーパーカーと呼ばれるような少数生産のモデルなどは、昔も今もFRPでボディを作るのがごく当たり前です。

しかし、量産を前提とすると、FRP、CFRPの採用は非常に難易度が高くなります。現在、量産モデルでボディにCFRPを採用しているのは、このページの冒頭に写真を掲載しているBMWのEV(電気自動車)「i3」などごく一部だけです。

ただし、FRPの量産技術はFCV(燃料電池車)やEVと並んで自動車の次世代技術の核となるもので、熾烈な開発競争が繰り広げられている最中。「i3」以外のモデルにもFRPを部分的に取り入れているBMWが、この分野では一歩先んじている感がありますが、今後は他メーカーも積極的に採用していくことでしょう。

こうした軽量化の取り組みにより、最新の自動車は低燃費であるだけでなく、軽快な走行性能も実現しています。目的は燃費性能の改善だったのですが、結果として乗る人をワクワクさせるドライビングが可能になりました。ボディの軽量化は、車の魅力を再確認させる武器にもなっているのです。

2015年3月13日掲載

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ガイドプロフィール
山田 正昭(やまだ・まさあき)
自動車・バイク・ITジャーナリスト/YouTuber

自動車雑誌、バイク雑誌の編集を経て、フリーランスとして独立。Webに活躍の場を移し、多数のサイトで執筆活動を展開中。カーナビやデジタルガジェットのインプレッション記事も得意とする。最近はYouTubeで車やバイクのレストア・整備・修理などを公開中(まーさんガレージ:https://www.youtube.com/user/yamada911/)。

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