トヨタ vs. フォルクスワーゲン
何もかもが対象的な2大自動車メーカー
自動車の販売台数世界一の座をめぐって、トヨタとフォルクスワーゲンが熾烈な争いを繰り広げています。2014年までの3年間はトヨタが世界一でしたが、2015年は躍進著しいフォルクスワーゲンが逆転するかもしれません。この2社は、企業の体制や主力モデルの扱い方が大幅に異なっているのが特徴。得意とするマーケットを見ても差別化が図られており、対照的なライバルと言えます。販売台数世界一を狙うフォルクスワーゲン、販売台数よりも利益率を重視するトヨタ。各社の動向から目が離せません。
ここ数年、年明けに必ず話題になるのが前年の自動車メーカーの世界販売台数。常にトップ争いをしているトヨタとフォルクスワーゲンは何もかもが対照的です。ライバル同士の争いは、今後どのような展開を見せるのでしょうか。
トヨタが3年連続で販売台数世界一を達成
2015年1月に発表された各社の世界販売の実績を見ると、2014年はトヨタが初めて1,000万台を超えて1,023万台ものクルマを販売。一方、フォルクスワーゲンも1,014万台と初めて1,000万台を超え、僅差の2位となっています。これで、トヨタは3年連続で販売台数世界一を達成。家電業界の凋落など、日本の製造業に陰りが見える中、トヨタの好調な業績は日本全体にとって明るいニュースと言えます。
さて、「フォルクスワーゲンはそんなに大きな会社だったのか」と驚いた人も多いのではないでしょうか。実は、同社はこの10年で販売台数を2倍にまで拡大させており、これほどの巨大企業になったのは最近のことなのです。
一方のトヨタは、10年前にはすでに世界で800万台前後を販売していました。当時はGM(ゼネラル・モーターズ)が不動の世界一だったのですが、トヨタはリーマン・ショックや大規模リコールの荒波を乗り越えながらGMと熾烈な首位争いを展開。そして、ようやくGMを退けたと思っていたら、いつの間にかフォルクスワーゲンが背後に迫っていたという構図です。
“追うフォルクスワーゲン”と“追われるトヨタ”ということになるのですが、面白いのは両社の事業方針が非常に対象的なことです。例えばグループの陣容。トヨタは大きなグループを形成していますが、自動車ブランドとしてはダイハツ、日野、それに自社の高級車ブランドであるレクサスを加えた4ブランドがそのすべてです。
一方、フォルクスワーゲンは、同じドイツのアウディ、ポルシェを傘下に収めており、アウディにはスペインのセアト、イタリアのランボルギーニが属しています。さらにチェコのシュコダ、イギリスのベントレー、フランスのブガッティ、トラックメーカーのスカニア、バスを製造するMANといったブランドもフォルクスワーゲングループの傘下。これらの販売台数がすべて合計されたものが、フォルクスワーゲンの販売台数となっています。
これほどブランドが多いのは、フォルクスワーゲンが世界一の座を目指して、拡大路線で企業買収を繰り返してきた結果です。手当たり次第とも言える買収を行ったせいで、フォルクスワーゲンのグループには明らかに競合するブランドも含まれています。自社製品とバッティングしない軽自動車とトラックメーカー各1社を傘下にしているトヨタとは明らかにブランド構成が異なるのです。
主力モデルのブランド戦略にも大きな違い
トヨタが次世代エコカーの本命としてFCV(燃料電池車)「MIRAI」を発売したことは、大きなニュースになりました。トヨタは新しいパワーユニットに対して専用モデルを用意することが多く、FCV専用モデルである「MIRAI」のほか、ハイブリッドを初めて発売したときの「プリウス」、その弟分の「アクア」といった例があります。
FCV発売で先手を取られたフォルクスワーゲンですが、実はFCVの開発はほとんど完了しています。2014年のロサンゼルスモーターショーでは、FCVの研究車両「ゴルフ ハイモーション」を発表しました。その車名からもわかる通り、このモデルは既存モデルである「ゴルフ」のエンジンを燃料電池に置き換えた車両です。
トヨタは新しい技術に対して新しいモデルを用意し、そのデザインも未来的なものとして、高い付加価値があることをユーザーにアピールする戦略を好んで用います。一方、フォルクスワーゲンは、新しい技術を見慣れた既存モデルに搭載することで、ユーザーが違和感なくその恩恵を得られるようにしています。
「せっかくFCVやハイブリッドのモデルを購入するなら、トヨタのように専用のモデルがいい」という人が多いかもしれません。しかし、技術革新とともに新たなモデルを次々とデビューさせたトヨタでは、昔ながらのモデルはそのほとんどが廃止もしくは目立たない存在となってしまいました。
「カローラ」は実質的に「プリウス」にその座を明け渡し、「スターレット」は「ヴィッツ」に取って代わり、さらにコンパクトカーの主力は「アクア」に。「コロナ」や「マークII」といったモデルもすでになく、長い伝統を守っているのは「クラウン」くらいです。
一方、フォルクスワーゲンは名車中の名車「ゴルフ」が、今も実用的なハッチバックモデルとして君臨しています。やや変則的ですが、「ゴルフ」の先代モデルである「ビートル」も健在。長い目で見れば、主力モデルの価値を熟成させ、高めていくこのブランド戦略は正しいのかもしれません。
中国で強いフォルクスワーゲン、アメリカで強いトヨタ
両社は得意とする市場も異なっています。フォルクスワーゲンはもちろん欧州を第一のマーケットとしていますが、近年は中国での販売が急増。欧州とほぼ同数にまで増加しています。約1,000万台の販売のうち、欧州と中国がそれぞれ40%弱といったところ。米国は10%にも満たない、わずか60万台程度に過ぎません。
一方、トヨタは日本国内とアメリカがそれぞれ約25%で、この2ヵ国だけで半数を販売。しかし、中国では10%程度にすぎません。残りの40%は欧州のほか、中東やアフリカなどの新興マーケットで販売されています。
中国のマーケットは驚くべき成長を続けており、その市場規模は2,500万台に達したとの試算もあります。もちろん自動車の国であるアメリカも巨大なマーケットであることにかわりなく、その規模は1,600万台ほど。ちなみに日本は550万台ほどです。
このように中国とアメリカが世界の2大マーケットであり、トヨタはアメリカに強く、フォルクスワーゲンは中国に強いというのが現状です。トヨタはモータリゼーションが比較的未熟な中東やアフリカで人気があるため、中国でも受け入れられそうなものですが、なかなかブランドが浸透しないのは不思議です。
これは、トヨタの方針が影響しているのかもしれません。数年に渡ってGMと激しい首位争いを演じ、今はフォルクスワーゲンの挑戦を受けているトヨタですが、実は、トヨタは販売台数世界一にこだわりがないことを明言しています。それよりも、1台あたりの利益率を重視するというのです。日本やアメリカは利益率の高い高級車が売れるマーケットであり、中国で販売を増やすには価格競争力が重要になります。トヨタは中国での販売を大幅に増やす計画を立てていますが、もしかすると本音は違うところにあるのかもしれません。
トヨタ vs. フォルクスワーゲン、双方の動向やいかに
トヨタは2015年の販売台数について、2014年比で約1%減少するとの見通しを発表しました。また、トヨタは過去3年ほど、新工場の建設を全面的に凍結しており、仮に需要が大幅に高まったとしても、供給を増やせない状況です。
2015年に入って工場建設の凍結を解除しましたが、新工場が稼働するのは数年先になります。加えて、あくまで品質管理や競争力の維持が重要として、生産能力を急拡大させる意向はないことを強調しています。そのため、2015年はフォルクスワーゲンが販売台数世界一に躍り出る可能性が極めて濃厚となっており、その後も数年はフォルクスワーゲンが優位に立ちそうです。
トヨタと対象的に、世界一の称号を求めて企業買収を繰り返し、中国市場でも大いに奮戦しているフォルクスワーゲン。しかし、販売台数の拡大にこだわるあまり、利益率が悪化しているとの指摘もあります。フォルクスワーゲンは今後も実績を伸ばせるのか。トヨタはあくまで利益率にこだわるのか。興味深い争いが今後も続きそうです。
2015年4月16日掲載
自動車雑誌、バイク雑誌の編集を経て、フリーランスとして独立。Webに活躍の場を移し、多数のサイトで執筆活動を展開中。カーナビやデジタルガジェットのインプレッション記事も得意とする。最近はYouTubeで車やバイクのレストア・整備・修理などを公開中(まーさんガレージ:https://www.youtube.com/user/yamada911/)。
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