【できた】マグナムトルネード
ある日、ふと思った。
2016年にもなったのだから、そろそろミニ四駆はマグナムトルネードぐらい、できるようになってもよいのではないかと。
■マグナムトルネードとは
マンガ「爆走兄弟レッツ&ゴー!!(小学館)」に登場するミニ四駆「マグナムセイバー」シリーズが得意とする必殺技の名前。機体が上空にコースアウトしたかと思ったら、トルネード状に回転しながら猛スピードでショートカットしてコースに戻るという神技。
「IoT」だとか「3Dプリンター」だとか言っている時代である。きっと現代技術を駆使すれば、たかだか15センチにも満たないミニ四駆の1台や2台、軽くトルネードさせることが可能なはずだ。
そんな希望を込めて、今回はマグナムトルネードの実現に最も協力的と思われる会社に行ってみた。
超絶マニアック! ユカイ工学のエンジニア登場
やって来たのは、ロボット開発やその他もろもろ変わったモノづくりをしている、ユカイ工学さんだ。「脳波で動くネコミミ」など、技術力の無駄遣いを率先して行う同社なら、きっとミニ四駆を華麗にトルネードさせてくれるに違いない。
担当してくださったのは、エンジニアの伊藤さん。
ミニ四駆歴約35年。フルカウルミニ四駆の大ブームが起きるずっと前に、木型でフルカウルボディを自作し、タミヤ公式のコンテストで「前ちゃん賞」をもらったことがある筋金入りのミニ四駆プレイヤーだ。タミヤのスター社員「前ちゃん」を知っている人に、悪い人はいない。
伊藤さんは『ダッシュ!四駆郎』や『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』あたりでいうと、どのマンガからファンですか?
いやー、マンガは読んでなかったんですよね。
え、そうなんですか? どうやって「アバンテ」とか「トライダガーX」を知ったんですか?
そもそも「マンガに登場してからマシンが発売される」という形式が、昔はなかったんですよ。そういう意味では「マンガが始まる前からファン」ということになります。
じゃあ「ダッシュウォリアーズ」とか「鉄心先生」って言われても、わからないですか?
RCカーからミニ四駆になった「ホットショットJr.」「ブーメランJr.」とかはよく覚えてます。当時のミニ四駆は、RCカーの名残でイボイボのタイヤが標準だったんですよね。
本物ですね……。
技術の無駄遣いをしよう
「で、さっそくなんですけど」
「今回はコイツを、トルネードさせてみたいんです」
「なるほど……、マグナムセイバー・プレミアムですか」
え? プレミアム?
2010年にリリースされたモデルですよ。従来のマグナムセイバーがスーパーIシャーシだったのはご存じですよね? スーパーIはフロントバンパーの強度が異常にモロかった。その弱点を克服して、より実践的に強化されたのがスーパーIIシャーシなんです。さらにマグナムセイバー・プレミアムでは、機体を原作に近づけるため、初期セットで3.5:1超速ギアを搭載。ボディ付属のシールも原作を忠実に再現したデザインになっています。ブラックのシャーシはポリカABS樹脂製、レッドのバッテリーホルダーやリヤステーはABS樹脂製。ターン式スイッチや2点固定式リヤステー、ビス止め式のリヤギヤカバーなど、これまでとは一味違ったスペックが楽しめます。バンパーやリヤステーはパーツ取り付け穴を複数用意しているので、幅広いセッティングに対応するのも強みですね。
……原作に忠実でスゴいモデルってことでいいですかね?
知らずに買っていたんですね。
改めてマグナムトルネードについての説明をして、実装可能かどうか交渉する。
わざわざ画に描いてみたが、「描かないほうがわかりやすかった」と言われた。
「うーーん、難しいですけど……」
「やってみましょうか」
交渉成立!
ということで、2週間後にまた来ることになった。
どんなマシンになるのか楽しみで仕方がない。少年時代の夢と希望を載せたマシンが、2016年になってとうとう完成するのである。
夢のマシンと対面
「とうとう約束の2週間が経ちました。伊藤さん、どうですか? できましたか……?」
…………。
「待ちくたびれましたよ」
ドンッ!!!
「こ、これが……マグナムトルネード対応型……マグナムセイバープレミアム・改……!!!!」
マグナムトルネードに移行するためのギミックはもちろん、耐久性を向上させるためにFRP強化マウントプレートの使用をはじめ、バンパー周りを徹底的に強化。経費という名の大人の経済力をふんだんにつぎ込んだベアリングローラー(6個)でスピードアップを図りました。中空シャフトでの軽量化に加え、モーターはスプリントダッシュを起用。足回りもちょっと軽くしています。
小学校時代にこんなマシン使ったら7秒でカツアゲされますね。
飛ぶためにはまずスピードが出ないとお話になりませんから、ここまでのチューンナップは最低限だと判断しました。
本当にありがとうございます。
原作に忠実なコース作り
モンスターマシンの完成に興奮冷めやらぬ状況だが、実際にトルネードする前に、原作に忠実な設定を求めて、コース設計の確認をする。
マグナムトルネードは、コーナーリングが苦手なマグナムの弱点を克服するための必殺技として開発されたのは、ご存じですよね?
はい。コーナーをショートカットするために使ったんですよね。
そうです。つまり、実際のコースもこんな感じで、本来はコーナーに入る部分をトルネードで乗り越えるべきだと思うんです。
なるほど、わかります。
こうして完成したのが、ユカイ工学オリジナル・マグナムトルネード対応コースである。
周回を目的としない、トルネードのことだけを考えて作られたコース。写真では伝えきれないが、かなりデカい。
コースは私物ですか?
いえ、取材経費として3コースぶん買いました。
(経費かなり使ってるけど、原稿料残るかなこれ……)
トルネードする仕組み
いよいよ夢を実現させるときがきた。果たして無事にトルネードできるのだろうか。機体の最終チェックを行う。
そういえば、トルネードする仕組みってどうなってるんですか?
ああ、そうか。それを説明すべきでしたね。
まず、マシンの左前方に、段差などで衝撃を受けると地面を強く叩くプレートを付けています。
なんだそのプレート。
さらに、コースにもわずかな段差を付けました。
あ、コースもイジってるんですね?
本当はコース側はイジらずにいきたかったのですが、今の技術ではまだ、これが限界かなと。
そうなのかあ……。
少し残念に思われるかもしれませんが、そもそも物理法則を完全に無視した動きですからね、アレ。
冷静に言われるとウケる。
いざ、トルネード
「それじゃあ、そろそろトルネードさせてみましょうか」
うおー! 緊張するー!!
制作期間2週間。とうとう夢のマシンが走り出す。
いきますよ?
はい! お願いします!
「GO!!!!」
「いっけえーっ!!!!」
うわー! 惜しい! 飛んではいるけど、飛距離が足りない!
そうですね……やはりハードルは高い……。
あと、思ったより機体がバラバラになりそうな感じで飛ぶんですね。
僕も思いました。機体への負荷が思ったより大きい技ですね。3回に1回はネジを交換しないと危ないかもしれません。
その後も
何度もチャレンジしましたが、
惜しくも届かない状況が続く。
惜しいんだけどなあ……どうにか飛距離が伸ばせればいいのに……。
うーん……。
怒涛のカスタム、そして……
30回くらいトルネードさせたところ、すべて失敗。
何を思ったのか、突然機体をバラバラにしだす伊藤さん。
どうしたんですか!?
ちょっとタイヤを「大径ナローライトウェイトホイール」(320円)に替えてみましょう。さらに、大径ホイールにした上で、軽量化とギア比の兼ね合いのために26.5ミリくらいまで削ります。
いきなりめちゃくちゃカスタムし始めた。
あと電池もアルカリから「単3形ニッケル水素電池 ネオチャンプ」(1,000円)に替えます。
え! なんで電池の種類まで……?
ニッケルの方が軽いんですよ。軽量化しないと、あの距離は飛べません。
判断が迅速すぎる。
ちょっとそこ邪魔です、どいてください。
あ、すみません。
ギュイィィィィィィィィィィィィン!!!!
なんですか、これ?
回転計です。
なんで回転計までハンドメイド感満載なんですか。
タミヤ公式の回転計だと、細かいところまで表示されないんですよ。少しだけチューンナップしたときの些細な変化を知りたかったので、自作したんです。
これがユカイ工学のエンジニアか。
まさかこんなところで役に立つとは、ね……。
嬉しそうでよかったです。
衝撃で曲がってしまった、たくさんのネジ。
傷だらけになったボディ。
やはり、マグナムトルネードはマシンに負担がかかる技だった。
それでも僕らは諦めるわけにはいかない。
これは男の意地とロマンをかけた、絶対に負けられない戦いだからだ。
よし、これでちょっとやってみましょう。
お願いします!
すでに4時間近くトルネードしており、マシンも僕らの精神も限界を迎えていた。
このトライでダメなら、今回は諦めることも考えざるを得ない。とうとう戦いは、最終局面を迎えたのである。
今度こそ、キメます……。
行きましょう……!
スッ……
「……GO!!!!」
「行けっ……!」
「行けっ……!!」
「行っけぇーーーッッ!!!」
きたああああああーーー!!!!!!!!!!!
ショートカット成功ーーー!!!!!!!!!!!
うおおおおーッ! 届いたーッ!!!!!
やった! とうとうやりました!!
不格好ではあるし、「なんならショートカットしないほうが速いのでは?」という疑問も沸かなくもない。しかし、当初の目的である「トルネードしてコーナー部分をショートカットする」は、今この瞬間、達成されたのだ。
すごいー! ちゃんと回転しながら飛んで、着地して走りましたよ!!
ここまで長かったですね……。形になって、よかったです。
おわりに
ガシッと握手を交わす僕ら。
伊藤さん! 本当にありがとうございました……! 長い戦いでしたが、とうとう夢を実現させることができました!!
ええ、若干イビツなトルネードではありましたが、僕も満足しています。コイツもよく頑張ってくれました。
そうですね、すべてはこの「ユカイ工学式マグナムトルネード対応型マグナムセイバープレミアム・改」のおかげですね……! ありがとう、マグナムッ!!
こうして僕の夢である「マグナムトルネードの実現」は、多少不格好ではあるものの叶えることができた。
フタを開けてみれば、IoTも3Dプリンターも使わない、とても泥臭いものではあったが、いずれ技術が進歩していけば、さらにスマートでエレガントなマグナムトルネードができる日も遠くはないはずだ。
でも、それはまだ少し未来の話でもいい。今できる範囲で、できる限りの結果を残すことに、きっと意味はあるのだから。マグナムはそんな教訓を教えてくれた。
見てくれ、小学校時代の自分よ。お前は30歳目前にもなって、マグナムトルネードができたことを喜んでいる変なおっさんになるぞ。そしてそれも、意外と悪くないと思っているぞ。
…………
…………
…………
プルルルルルルルル…………
…………
「あ、もしもし。ひとつ伺いたいんですけど、『本当にマグナムトルネードができるマシン』を開発しまして、ええ、ギミックがですね、マシン本体と、あと若干コースもイジる必要があるんですが、これってタミヤさんの公式レースに出せますか?」
「え、ダメに決まっている? なんで……? コースに何か仕掛けるのは反則? マシンもなんか危なそうだからダメ? いや、ほんのちょっとだけなんですよ……? ほんのちょっとイジるだけで、子どもたちの夢が……」
「はい……、はい……。ええ、いや、あの、はい……すみません……。そうですよね、無理、ですよね……はい……すみません……すみませんでした……」
【注意】
公式戦どころか、非公式のレースでもたぶん嫌がられるので、自宅以外でマグナムトルネードをするのはやめましょう。
おしまい
【おまけ】
ユカイ工学式マグナムトルネード対応型マグナムセイバープレミアム・改で使った素材
・19mmプラリング付 アルミベアリングローラー(5本スポーク)…660円×2
・GP.205 1.4mm中空軽量プロペラシャフト…140円
・GP.193 FRPマルチ補強プレート…200円
・ARシャーシ サイドマスダンパーセット…620円
・マグナムセイバー プレミアム(スーパーIIシャーシ)…900円
・GP.368 大径ナローライトウェイトホイール(バレルタイヤ付)…320円
・60mmブラック強化シャフト(4本)…200円
・カーボン強化ギヤ G13・8Tピニオンセット…200円
・GP.111 丸穴 ボールベアリング4個セット…680円
・AO-1011 620ベアリング2個セット…700円
・ミニ四駆 単3形ニッケル水素電池 ネオチャンプ(2本)…1,000円
・GP.318 スプリントダッシュモーター…400円
・アルミスペーサーセット…260円
・ミニ四駆キャッチャー…560円
・AO-1024 2×38mm両ネジシャフト(4本)…300円
・ブレーキスポンジセット…440円
・タミヤ ミニ四駆 ジャパンカップ Jr.サーキット…19,800円×3
合計……67,640円
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車業界に長くいた石川だからこそ、一般の人が知らないすごい裏ワザを知っているのかもしれません。
そこで、詳しい話を聞いてみることにしました。
大手中古車販売業者の本社で事業企画に携わったあと、中古のスポーツカー専門販売店「GTNET」の仕入れ責任者を担当。その後、LIGへ移りセールス課のマネージャーに就任、現在に至る。自動車業界には10年以上いるため、車の市場動向に詳しい。